昔、宮本武蔵が、尾張の槍術師範の家を訪れた時、
丁度玄関に居合わせた、槍術師範が、「これは見事なり」と言って、しばし、 其処に立つ宮元武蔵を眺めていた。
そんな逸話が残っています。これは、尾張柳生家に伝わる話なので本当の事らしい。
勿論、見る方にもそれだけの眼力が合ったであろう事は、容易に察しが付くが、
少なくとも剣道を学ぶ人は其れなりの格が現れるようになりたいものだと思う。
昔、熊が、肉屋を開業する一年前に、地元郊外のスパーでカナダ式の肉販売や、仕入れに関して勉強する為に、働いた事が有る 。そのスパーに、何人かに日系人の方々がお客としてこられていたが、その仲に、一人のおばあちゃんが居た。
その方は勿論、英語が話せない。おまけに息子の奥さんが白人さんなので、非常に気を使う。同居はしていないのだが、やはり色々文化の違いで、悩んで居られた。
熊は、そのおばあちゃんと旦那様にお会いしたと事があり、こちらではすき焼き肉、薄切りの肉が販売されていないので、熊が自分の小型のスライサーで切ってあげた事が何回か有った。
そんな事でおばあちゃんは、スパーにこられる度に、肉の調理場を覗かれるようになった。熊が居れば買い物をする、居なければ帰っていかれるのだ。
そんな事が何度か続いた時に、そのおばちゃんは、熊に、 「貴方は人間の格が有る」
と言われた。突然の事だったので驚いたが、何故そう感じられるのですか、と訪ねたら、
その方の父上が武道を遣っておられた軍人さんで、ご立派な方であられたとか、
つまりいつも威風堂々とされたいた。と言われるのである。
熊は正直驚いた。自分で別に威風堂々と作っているわけでもなく、おまけに客商売だから、できるだけ丁重に何方とも接して来た積りである。
だけどそのおばあちゃんには何かを感じさせるものがかもし出されていたのかもしれない。
ありがたいと思う反面、恥ずかしくも有ったが、これも剣道を長年遣ってきたお陰だと感謝した。
人間、どんな処で、どんな風に人に判断されるかわからない。
昔、持田範士が道を歩いておられた時に、その姿があまりにも立派だったので、タクシーでそばを通った、踊りの師匠が、車を止めて、わざわざ範士の 処まで戻られて、
「貴方様は何をなさっているお方ですか」と訪ねられたと聞く。
お相手も踊りの師匠と言う事で、其れなりの慧眼はお持ち で有ったとは思うが、これも素晴らしい話ではないか。
剣道人、やはりどこかが違う、と感心される人間になりたいものだと思う。