Canada Youshinkan Kendo Dojo

モントリオールの侍

アントン君が、毎年春休みを利用して、養心館に出稽古に来る。わざわざ6万円以上の飛行機賃を使ってである。バンクーバーとモントリオール飛行機で5~6時間掛かる。

それだけの距離を、たかが剣道の為に毎年小遣いを貯めて出かけてくる其の姿勢には頭が下がる。

熊が毎年日本に出かけて、京都参りするのに似ている。熱心な事だ。熊とて毎年出かけるのは何がしかの事を学びたいが為に年間の有給休暇全てを其れに裂いているのだ。

たかが剣道、されど剣道である。普通一般の剣道かには思いも寄らない事であろう。

モントリオールには白人の7段の中々確りした指導者がいるのだが、中々理合いのことまでは教えられない。事実、英語で書かれた剣道書に其処まで深いことを説明されている物はまだ目にしていない。

彼は、マギール大学というカナダでは、東大、京大クラスの大学生で非常に頭が良く、理解力が素晴らしい生徒だ。過去何度か稽古をして、矯正点を指導した、其の時に理合いを説明するので、今までそんな指導を受けた事が無い彼に取り、目からうろこが落ちたのだろう。

其れが彼を毎年、大金を払わせてバンクーバーにまで出稽古に来る大きな要因に成った。英語の指導は主に白熊と黒熊が遣る、彼らは12.3歳から羽賀の親父の薫陶を受けて、理合いの事も殆ど理解しているし又それだけの実力もある。

何しろバイリンガルだから、剣道の通訳をさせても先ず間違いが無い。通常剣道は英語が出来ても剣道が分からなければ通訳は難しい。其の観点から見ても彼らの能力は優れたものがあると自負している。

そこで、アントン君。現地での彼の周りは試合に恐々とした、試合勘に頼る反射神経の剣道を行っている。体力、反射神経に優れた彼らは直ぐに指導者に追いつく。

だが其の彼がくまと稽古をしても何処にも触れない。それで彼は、何が本物の剣道なのかが、おぼろげながら理解できたようだ。勿論、熊のレベルにした所がたいした事は無いのだ。

その熊が反射神経を越えた処に本当の剣道があると教えている。其処まで進まなければ、年老いたら稽古は出来なくなる。其れを何とか今若いうちに方向性を見つけたい其の気持ちで出てくるのだ、6万円、高いと思うか、安いと思うか、彼のみぞ知る。