中学校2年の時だった、何度か市の大会で、優勝した。其の頃、担任だった、先生が剣道四段。戦前の四段だんだから可也の実力者だと思う。学生大会で何度か優勝経験が有るのだと聞いていた。
だが其の先生は剣道部の顧問ではなく、単なる担任と言う間柄だった。其の先生が、熊が何度か優勝した事を聞いて、熊に話しかけた。
「絶対に勝てる方法を教えてやるから、俺の当直の日に中学校の体育館に来い」と言うものだった。
熊は其の頃、街の剣道教室(愛好家の団体)で稽古をしていた。折り悪く、其の先生の当直日が稽古日に重なり、一応団体の指導者、教士7段に事情を話し、行かせてもらった。
団体の指導者は、「そんなもの有りはしない」と笑っていたが、担任なら仕方が無いだろうと、行かせてくれた。
担任の先生から教えてもらったことは、面を打つときは小手と色を見せて、面を打て、小手を打つときは面と色を見せて小手を打てと言うものだった。担いで面、担いで小手なども教えてくれた。
その後もおかげさまで試合成績は確かに良かった。子供がこんな小細工を覚えると確かに勝率が上がる。
だから、試合態度も段々横柄に成っていた様に思う、子供ではなにが正しいのか悪いのか未熟で判断能力に欠ける事が多い。
所が、大人になり、稽古を再開して、間もない頃、恩師の道場で稽古をしていたとき 、県警の師範が出稽古に見えられて、言われた。
「熊の稽古はこんなに、悪かったかな?高校生の頃はもっと良い稽古していたように記憶しているが、勘違いだったか、こんな稽古なら、県警に呼ばなくて良かった」
これは少なからずショックだった。大人になり再開して、何とか勝とう、当てようと、必死になっていた。それが剣道だと思っていた。
それから、師匠に言われた、もう一度基本からやり直せ、師匠に従順に従った。道具を全て外し、竹刀の握り方から直され、足裁き、素振り、切り返しだけを3ヶ月間やり直した。
そして面を着けて、掛かり稽古を中心に稽古を組み立てていった。
勿論、地稽古もするが、姿勢を崩すと叱られた。構えを崩すと注意された。
剣先を意識しろ、構えを意識しろ、足は平行にしろ、左手はへそ前から動かすな。意識することばかりが多くて、たまに出る試合になど全然勝てなかった。
悔しかった。其の業を使えば何とか勝てるかもしれないと何度も思った。だが師匠は絶対にそれを許してくれなかった。
今思えば感謝である。それを通してきたから何とかここまで来れたのだと思う。
若し担任の言う、そのままの稽古をしてきていたら、今の自分は絶対に有り得ない。教育者が、相手をごまかして打つことを教える。
それで本当の教育に成ったんだろうか、今なら言える、そんな稽古は将来が無いと・・・・・・・
だが、何処かでそんな話を目にすると、苦い思いが込み上げて来る。