全剣連が、世界大会敗北後、骨太剣道教育と称して、日本代表候補選手に其れを実践してきた。
今年の、全日本選手権を見た限りでは、其の効果が絶大に出て来た様だ。
過去10年の選手権、三箇所除けのオンパレードで、気の抜けた試合は見ていてうんざりした。所が今回は、明らかに今までの選手権とは打って変わって、堂々とした渡り合いは、固唾を呑んで見守る試合が多かった。
三箇所除けが見られなくなったお陰で、試合の緊迫感が此れほどまで違ってきたことに驚きを隠せない。あれは完全なる逃げの動作だから、正々堂々戦うと言う剣道とは、かけ離れていた。
だから、熊は三箇所除けをしている間、又世界で負けるぞと、口やかましく警告を発してきた。 其の甲斐があったのかどうかは定かではないが、日本の先生方の中にも其れに気づいてくれた方がいたのだと思う。
今回、テレビの放映の2時間近くの中で一人だけ其れも一度だけ其の動作が見て取れた。他の選手は見事なまでに三所除けは出さなかった。
其のお陰だと思う緊張感が漂う、手に汗握る素晴らしい試合が多かった。
特に、前年優勝者の寺本選手対正代選手の攻防。最後の最後まで試合を捨てなかった、正代選手の逆転劇は,見ていて頼もしさを感じた。
負けたとは言え、寺本選手の崩れる事の無い剣道はそのまま初一本の捨て身の出鼻面に見事に反映されていた。勝負はそのまま1本勝ちを収めるかの思えたが、正代選手のフェイント気味の捨て身の諸手面に、一瞬心を固まらせてしまったようだ。
其の反撃の、余韻が消えないまま、諸手小手の速攻。サシモノ、チャンピオンも成す手が無いまま負け去ったが、試合内容は最後まで正々堂々の渡り合い。見事と賞賛したい。
其れと、優勝戦、20分の長きに渡る試合も、縁が切れることなく、端正な構えを終始貫いた、若生選手も見事と賞賛に値する。
剣道に勝ち、勝負に負けた、感があった。だが、最後に捨て身で面を打った正代選手。相手が小手に来る所を、出鼻に面にとんだ。
まさに剣道の真髄、「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を断つ」を完璧に表現した打ちではなかっただろうか。見事としか言いようが無い打ちであったと思う。
そして、毎年、何やかやと物議をかもし出す、審判も、見事なまでに冷静に、完璧に裁定を下しておられた。
誰が見ても、納得せざるを得ない裁定は、此れもまた見事であった。審判に当られた先生方には心よりお疲れ様と賛辞を述べたい。
人間、やれば出来る。今回の試合を拝見させていただいて、剣道本来有るべき姿に帰依した影には、日本代表選手の方々に厳しい態度で臨まれたコーチの先生方に並々ならぬ努力が窺い知れた。
此れでこそ、世界の見本と成りうる、日本伝剣道ではなかろうか。日本にも、心ある先生方が真剣に取り組んで頂けたお陰で、素晴らしい試合を拝見できたことを心から感謝したい。