熊もとうとう63歳に成った。だが、60は還暦、暦が還るだから、それからは36歳になったと、冗談を飛ばしている。
36歳と言えば、白熊が今年の暮れで36歳になる、まあ、息子と同じ年になる訳だ。そう言えば我が熊女房も来年で同じ年になる。
彼女との生活も丸三年になった。人間63年も生きていると色んな経験をする。まさか二度女房を貰う事に成るとは思いも寄らなかった。
22歳で結婚、25日後には独立開業、新婚などと甘いことを言ってる暇もなかった。
最初の子供を亡くし、白熊が生まれ、歓喜に震えた。子供を大事にしようと誓った。だが仕事に没頭するあまり、黒熊がスキンシップの無さが原因で丸三歳まで口が聞けなかった。
そんな時、アメリカに食肉使節団でNYに降り立った。摩天楼が林立する、セントラル公園で、リスが遊び、其のリスを犬が見ても吼えもしない、後も追いかけない。それを見た瞬間、心のどこかで何かが狂った。
動物までがこんなにストレスの無い中で生きている。こんな環境で子育てがしたいと思った。それが移住を決断させた最大の理由だった。
だから移住した後は子供とよく遊んだ、剣道が其の一番の手助けをしてくれた。冬は毎日スキーに出かけた。夏はキャンプにも出かけた。
やっと、これが正常な家庭生活を手に入れたと思った。子供たちも順調に育ち、世界大会に親は審判で子供は選手で参加も出来た。
カナダの大会、フランスの大会、日本の大会、三度の審判を勤めさせていただき、審判から下ろさせて頂いた。子供たちはその後の世界大会にも出たが熊は其の応援に行くことすらしなかった。
ズーっと行動を共にしてきた、元気だけが売り物のような前の女房だったが、肺がんであっけなくあの世に先立ってしまった。最大の契約違反だった。
小中高と同級生で、熊より三ヶ月若かった。俺より必ず後から死ねと約束していた。だから三ヶ月若いお前と結婚するんだと冗談めいて話していた。
其の前女房も新しい女房に遠慮しているのか、段々夢の中で会いに来る回数が減ってきた。時間が物事を解決すると人は言う。
確かに、時間がたてば記憶の遠くに、死ぬほど辛かったこと、悲しかったことが思い出される。大病で医者に見離されだが、奇跡的に蘇った。
事業が、倒産、破産寸前にまで追い込まれたが、破産、倒産もせずに何とか切り抜けて生き延びた。借金返しに10年間苦労したが、それも終わり、今は本当に幸せな毎日を過ごしている。