Canada Youshinkan Kendo Dojo

盗む

盗む、あまり良い言葉ではない。
普通、盗みを働けば、罪に成る。当然の事だ。
だが、剣道において盗む事は、良い事だ。

処が盗む事を知らない人が多い。
それは、指導者があまりにも親切に成りすぎて、教えすぎるからだ、と聞いたことが有る。

そうだろうか、教える方としては、生徒に少しでも早く上達して欲しいと願っているはづだ。

だが、習う方は、ああ、またか、またその話か、位にしか聞いていないのでは無いのだろうか。

だから進歩が遅いのではないだろうか、最近、剣道愛好家の意見交換の場で、審査に落ちて、悩んでいる人に出会った。

悩む事は、良い事だと思う。悩む心が有るから、何かを得ようとするのでは無いのだろうか。

熊が昔、三ヶ月に一度、榊原正先生にご指導を頂いた。先生は刑務指導教官で中部 管区の刑務所を指導に廻られていた。

その先生を駅まで送り迎えをしていた、 刑務官で熊の道場仲間が先生に言われたそうだ。

「熊は、良いにつけ、悪いに付け、毎回稽古が変わっている。それに付け、お前の稽古はいつ見ても変わらないな。」と叱られたと聞いた 。

送り迎えをしていた彼は、全国刑務官大会で三位に入賞した事の有る逸材だった。

熊の田舎のその当時の道場では彼は三羽カラスの一人だと歌われていた。

その彼等は職場に道場があり、その気に成れば毎日でも稽古が出来る環境にあった。

彼も、熊並みの稽古はしていたかもしれないが、昇段が遅れた。

五段は彼の方が熊より3年早くなった。六段では熊が追い越した。

彼は六段受験を十数度落ちた。七段審査もものすごい苦労をし て、最近やっと七段を通った。

何時も彼に会うと思う、榊原先生が言われていた、十年一日の如き稽古ではいけない。

毎日、日々是新たな稽古でなくては成らない 。

熊は思う、良いにつけ、悪いにつけ、盗もうと言う気があればこそ剣道が変わり、上達するのではないのだろうか。

剣道は人から盗めば盗むほど上達が早くなる。おまけに、ご褒美になっても絶対罪はならない。大いに盗もうではないか。